第71章 絶対に言ってはいけない

橘美姫は、今この瞬間、ただひたすらに祈るしかなかった。

(橘凛! 約束したじゃない! パパには言わないって! 絶対に約束守ってよ!)

さもなくば……この苦しみが無駄になる。絶対に許さないから!

布団の端を強く握りしめた指の爪が、掌に食い込む。彼女の胸中を占めるのは、橘凛への底知れぬ恐怖と怨嗟、そして相手が約束を守ってくれるだろうという一縷の望みだけだった。

すべての真実は、彼女が自作自演した『食中毒』と、それを利用した巧妙な濡れ衣の中に隠蔽されていた。

   ***

朝靄を透かして射し込む柔らかな陽光が、一条家の屋敷から幼稚園へと続く道を照らしている。

橘凛はスクーターを走らせ...

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